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Internal Audit · Information Security

内部情報セキュリティ監査ガイド
— 支援士スキルの監査人1名・年1回で回す —

重要インフラ事業者のネットワークセキュリティ実践ガイド」で構築した防御が実際に機能し続けているかを、内部監査として年1回点検するためのガイド。監査人は情報処理安全確保支援士(RISS)相当のスキルを持つ1名で実施する前提で、確認事項・証跡の取り方・報告の型まで整理した。

監査人:支援士スキル1名 頻度:年1回 対象:オンプレAD+境界防御の環境 被監査側:インフラ兼任3名の運用

1監査の基本設計 — 目的・拠り所・独立性

1-1. 目的:この監査は何を保証するのか

この監査は「保証型」と「助言型」の中間を狙う。監査人1名・年1回では外部監査並みの網羅的保証は出せない。「重大な穴がないことの合理的な確認+来年に向けた優先改善事項の提示」を成果物と定義し、経営層にもその射程を事前に説明しておく。

1-2. 拠り所にする基準

基準使い方
経済産業省「情報セキュリティ監査基準」監査人の行為規範。独立性・証拠の入手・報告の原則はこれに従う。
経済産業省「情報セキュリティ管理基準」監査項目の網羅性チェック用の辞書。本ガイド4章のチェックリストの背骨。
自社の情報セキュリティ規程・実践ガイド準拠性監査の直接の判定基準。「決めたことが守られているか」の“決めたこと”。
CISA CPG 2.0/NIST CSF 2.0到達度の物差し。年次の達成率推移として経営報告に載せる(→ CPG 解説)。

1-3. 独立性の担保(1名だからこそ厳密に)

2年1回で回す監査サイクル

年1回・監査人1名という制約下では「全項目を毎年同じ深さで」は不可能。基本項目(毎年必ず)+重点テーマ(年替わりで深掘り)の二層構造にする。

2-1. 二層構造

内容
毎年必須
基本項目
4章のチェックリストのうち★印。境界・AD特権・バックアップ・インシデント対応など「破られたら事業が止まる」統制。浅くても毎年全数見る。
年替わり
重点テーマ
毎年1〜2領域を選んで深掘りする。例:1年目=AD・特権管理/2年目=外部委託・サプライチェーン/3年目=ログとインシデント対応(テスト発報・机上演習の監査人立会い)。前年の重大指摘があった領域は自動的に翌年の重点テーマになる。

2-2. 年間の流れ(例:10月実施)

時期作業
8月監査計画書の作成(範囲・重点テーマ・スケジュール・依頼する証跡一覧)→ 経営承認・被監査側へ通知
9月被監査側が証跡を準備(設定エクスポート・台帳・記録類)。監査人は前年指摘のフォローアップ状況を先に確認
10月実査(実働10日目安 → 8章):書面確認・インタビュー・実測テスト
11月報告書作成 → 経営報告会 → 改善計画の合意(期限・担当)
翌年〜四半期ごとに改善状況を書面確認(半日)。未了項目は翌年監査の冒頭で再点検
タイミングの工夫:運用側の年次イベント(復旧演習・机上演習・NIST CSF 自己評価)の直後に監査を置くと、演習記録・評価結果をそのまま証跡として使え、双方の工数が減る。

3監査手続きの型 — 証跡・実測・インタビュー

1名で効率よく確からしさを積み上げるため、手続きを4種類に類型化して使い分ける。

手続き内容コツ
① 書面・証跡の閲覧規程・台帳・設定エクスポート・会議記録・ベンダーレポートを読む「作ってあるか」でなく「日付が新しいか・実態と一致するか」を見る。証跡は被監査側に出させる(監査人が本番機を直接操作しない)
② インタビュー運用3名・利用部門・経営層に聞く手順書を見ずに「今ランサム感染したら最初に何をしますか」と聞く。答えられるかが訓練の実効性の証跡になる
③ 実測・再実施統制を監査人の目の前で実際に動かすテスト発報・サンプル突合(→ 5章)。年1回の監査に「本物の確からしさ」を与える中核手続き
④ ツールレポートの利用PingCastle・ASM・脆弱性スキャン・MDR月次レポートを監査証跡として読む支援士スキルの見せ所。運用側が定常取得しているレポートを監査目線で再解釈する(スコアの推移・未対応項目の放置期間)
監査人は本番環境に手を入れない。実測が必要な場合も操作は運用者が行い、監査人は立ち会って観察する(画面・ログの記録を証跡化)。ペネトレーションテスト(疑似攻撃による侵入テスト)は本監査の範囲外——必要性を感じたら「外部診断の実施」を指摘事項として挙げるのが正しい動き方。

4ドメイン別チェックリスト(本体)

★=毎年必須の基本項目。「確認方法」は3章の手続き番号に対応。判定は「良い状態の目安」に照らして 適合/一部不備/不備 の3段階でつける。実践ガイドの章番号(→G3 など)と対応。

Aガバナンス・体制・規程

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★情報セキュリティ規程・手順書が実態と一致して維持されているか①規程の最終改定日/実運用との差分を②で確認年1回以上見直し。実運用と乖離した「棚の規程」がない
★経営層への定期報告が行われているか①報告資料・議事録(年次のCSF自己評価含む)年1回以上、リスクと投資判断が議論された記録がある
役割分担と属人化対策①運用カレンダー・手順書 ②「担当者が1名欠けたら」を質問主要作業に手順書があり、代替実施の実績(年1回のローテ実施)がある
教育・訓練の実施①受講記録・標的型メール訓練の結果(報告率)全員年1回受講。訓練は報告率を指標に改善している

B境界防御(FW / Proxy / DNS / VPN)→G3

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★FW ルールの棚卸しが実施されているか①棚卸し記録(半期)・変更管理記録 ③ルールのサンプル5件を申請記録と突合全ルールにオーナー・目的・期限。突合5件が全件一致
★アウトバウンド既定拒否と Proxy 強制①FW ポリシーのエクスポート ③検証端末から直接443接続を試行(遮断されることを観察)Proxy 迂回の直接通信が技術的に不可能
★VPN の MFA 例外ゼロ①VPN 利用者一覧と MFA 登録状況の突合(全数)例外0件。ベンダー用アカウント含む
★境界機器の緊急パッチ(72時間ルール)①直近1年の該当アドバイザリと適用記録の突合「緊急」該当が期限内適用。判断記録が残っている
管理インターフェースの非公開④ASM 月次レポートの閲覧 ①例外の承認記録公開面に管理画面・不要ポートなし。ASM が毎月回っている
公開サーバー社内不保持の原則維持①ネットワーク図 ②新規公開需要の処理方法を質問 ④ASM で実測原則の例外がない。例外がある場合は経営承認と分離設計の記録

CAD・特権管理 →G4

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★Domain Admins の最小化と分離①DA メンバー一覧の出力 ③メンバー全数について「日常アカウントと別か」「クライアントへのログオン拒否GPOの対象か」を確認2〜3アカウント。日常用と完全分離。技術的ログオン制限あり
★PingCastle 等 AD 健全性診断の運用④四半期レポートの時系列閲覧四半期実施・スコア改善傾向・重大指摘の放置なし
★特権変更アラートが機能するか③テスト用グループ追加で実際に発報させる(運用者操作・監査人立会い)数分以内に通知が届き、対応手順が説明できる
LAPS・サービスアカウント管理①LAPS 適用状況の出力 ①SPN 付きアカウント一覧と gMSA 化状況適用率ほぼ100%。長期未変更の高権限サービスアカウントなし
krbtgt 定期リセット①実施記録(年2回)と krbtgt の pwdLastSet 実測記録と実測が一致
AD バックアップと森の再建手順①手順書・年1回のリストア演習記録(→ドメインGでも参照)演習実績があり所要時間が計測されている

Dエンドポイント・サーバー →G5

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★EDR カバレッジ①資産台帳と EDR 管理コンソールの台数突合差分が説明可能(≒導入率100%)。未導入機は隔離等の代替統制
★MDR の実効性④月次レポート ②「深夜に重大アラートが来たら何が起きるか」を質問 ①過去の対応事例隔離までの権限委譲が契約に明記され、実績または訓練がある
★パッチ適用率④管理ツールの適用率レポート(クライアント/サーバー別)クライアント自動適用が機能し、長期未適用機の理由が管理されている
標準ユーザー化・マクロ既定ブロック①GPO/ポリシー出力 ③サンプル端末1台で実測ローカル管理者権限の例外が申請制で管理されている
USB・外部メディア統制①ポリシー ③サンプル端末で実測 ①例外申請記録既定禁止が実測で確認でき、例外に期限がある

E内部ネットワーク →G6

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★セグメント分割と管理プロトコル制限①ネットワーク図・ACL 出力 ③クライアントセグメントの検証端末からサーバーへ RDP/SMB を試行(遮断を観察)図・ACL・実測が三点一致。管理系は管理セグメントからのみ
無線・ゲスト分離①SSID 設計 ③ゲスト側から社内資源へ到達不可を実測ゲスト/私物が社内LANに触れない
ネットワーク図の鮮度①最終更新日 ②直近の構成変更が反映されているか質問実態との乖離なし(インシデント時に使える状態)

Fログ・監視 →G7

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★重要ログの収集・保存①ログサーバーの保存状況(AD/Proxy/FW/VPN/DNS の実データ最古日付を確認)目標保存期間(1年)を満たす。欠落期間がない
★即時アラート4種の実効性③1種類以上をテスト発報 ①過去の発報と対応の記録発報→対応の流れが実演でき、記録が残っている
時刻同期③主要機器数台の時刻ずれを実測NTP 統一。ずれが許容範囲内
月次レビューの実施①月例会議の記録(MDRレポート・ブロック上位・ルール変更)12か月分の記録があり、アクションが追跡されている

Gバックアップ・復旧 →G8

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★3-2-1-1-0 の充足(特にイミュータブル/オフライン)①バックアップ設計書 ③イミュータブル設定の画面を立会い確認ドメイン管理者権限でも削除不能な世代が存在する
★バックアップ基盤の AD からの独立①構成確認(ドメイン非参加・独自認証・管理セグメント)AD 全損時にもバックアップへ到達できる設計
★復旧演習の実施と RTO①年1回の演習記録(対象・所要時間・課題)②参加者に手順の要点を質問AD+基幹1式の復旧が演習済みで、RTO が経営報告されている
バックアップ失敗の検知①失敗時アラートの記録 ③可能ならテスト失敗が翌営業日までに検知・対処されている

H資産・脆弱性・アカウント衛生 →G9

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★退職・異動者アカウントの無効化③直近1年の退職者5名を人事データから抽出し、AD・VPN・クラウドの無効化を突合5件全件が退職日±数日で無効化。孤児アカウントなし
★脆弱性対応の期限遵守④月次スキャン結果の時系列 ①Critical/High の対応記録(KEV 該当の扱い含む)期限超過に承認されたリスク受容の記録がある(黙認がない)
資産台帳の正確性③台帳から5台抽出して実在・設定を確認、逆にネットワークスキャン結果から5台を台帳と突合(双方向)双方向とも不一致ゼロ、または差分理由が即答できる
EOL 資産の管理①EOL 一覧と更改計画・隔離状況「知らない EOL」がない。残存には隔離と計画がある
DMARC 等メール認証③自社ドメインの SPF/DKIM/DMARC 公開レコードを実測DMARC がquarantine 以上(none 放置でない)

Iインシデント対応 →G10

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★初動フローと権限委譲①初動手順書 ②抜き打ちで「今〇〇が起きたら」を運用3名それぞれに質問全員が手順書なしで初動を答えられる。遮断の権限委譲が文書化
★外部連絡先の鮮度①連絡先一覧(所管省庁・セプター・JPCERT/CC・警察・IR ベンダー・保険)の更新日年1回更新。IR リテイナー等の契約が有効
机上演習の実施と改善①演習記録と、前回演習の課題が潰されているか年1回実施。課題が翌年に持ち越されていない
報告様式と期限の整理①所管省庁への報告様式・期限の整理資料「疑い段階で第一報」が手順化されている

J外部委託・サプライチェーン →G3/G11

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
★保守ベンダーのリモートアクセス統制①ベンダーアカウント一覧(個別ID・MFA・有効化ルール)③利用ログのサンプル確認常時接続なし。利用の都度有効化と操作記録がある
MDR 等委託契約の内容①契約書(対応範囲・権限委譲・通知義務・SLA)「誰がどこまでやるか」に空白がない
委託先のインシデント通知義務①主要委託契約のサンプル3件を確認通知義務・時限の条項がある(ないものは指摘)
基幹インフラ制度(経済安保)への対応①対象設備の届出記録・調達プロセス対象該当性が整理され、更改時のプロセスに組み込み済み

K物理セキュリティ(簡易)

確認事項確認方法・証跡良い状態の目安
サーバールームの入退室管理①入退室記録 ③実地で施錠・持ち込み制限を確認記録が取れており、棚卸しで不審な入室がない
オフラインバックアップ媒体の保管③保管庫の実地確認施錠・耐火・持ち出し記録がある

5サンプリングとテストの実務 — 「書類監査」で終わらせない

1名・年1回の監査の価値は、少数でも実物に触れることで決まる。全数調査は不要。「5件・1回・1台」を合言葉にする。

支援士スキルの使いどころ:PingCastle レポートの重大指摘が本当に重大か、MDR レポートの「対応済み」が妥当な処置だったか、DMARC レコードの設定が実効的か——ツールの出力を鵜呑みにせず技術的に再評価できることが、この監査人に支援士スキルを求める理由そのもの。

6指摘・報告・フォローアップ

6-1. 指摘の区分

区分定義対応期限の目安
重大な不備侵害・事業停止に直結し得る統制の欠落(例:VPN の MFA 例外、バックアップの AD 依存、DA の常用)30日以内に是正または代替統制+経営報告
要改善統制はあるが形骸化・不完全(例:棚卸し記録の欠落、台帳の不一致)次回監査まで(期限と担当を合意)
観察事項現時点で不備ではないが、放置するとリスクになる事項・改善提案任意(翌年の重点テーマ候補)

6-2. 報告書の骨子(10ページ以内)

  1. 監査の概要(範囲・重点テーマ・手続き・限界事項:1名・年1回・サンプルベースである旨)
  2. 総合意見(昨年からの改善・全体評価を3行で)
  3. 指摘事項一覧(区分・根拠となった証跡・推奨対応・合意した期限と担当)
  4. 良好事例(頑張っている点を必ず書く——運用3名の士気は統制の一部)
  5. 経年サマリ(CPG/CSF 達成率・PingCastle スコア・指摘件数の推移グラフ)

6-3. フォローアップ

7監査人1名の心得と限界

8年次監査プログラム例(実働10日)

日程作業
Day 1キックオフ/前年指摘のフォローアップ確認/証跡一式の受領確認
Day 2ドメインA(ガバナンス)+経営層・利用部門インタビュー
Day 3ドメインB(境界):FW ルール突合5件・Proxy 迂回テスト・ASM レポート
Day 4ドメインC(AD):DA 全数確認・PingCastle 時系列・テスト発報立会い
Day 5ドメインD/E(エンドポイント・内部NW):台数突合・実機1台・RDP 遮断実測
Day 6ドメインF/G(ログ・バックアップ):保存実測・イミュータブル立会い・演習記録
Day 7ドメインH/I/J/K:退職者5件突合・DMARC 実測・初動の抜き打ち質問・実地確認
Day 8重点テーマの深掘り(年替わり。例:外部委託契約の精読・机上演習立会い)
Day 9不足証跡の追加確認/指摘候補の事実確認(被監査側との認識合わせ)
Day 10報告書ドラフト作成 → 後日、経営報告会
被監査側(運用3名)の負担目安:証跡準備に計2〜3人日+実査対応に各日1〜2時間。監査計画書に「依頼する証跡一覧」を添えて1か月前に渡すことで、実査中の手戻りをなくす。

9参考資料

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