Nepal · Connectivity on the ABC Trail
ネパールの通信——SIMの選択と、ABCルートで電波が切れる場所
通信は「あると便利」ではなく、この旅程では保険の実効性そのもの です。「ヘリを承諾する前に保険会社のサポートラインへ電話する」 という手順を立てた以上、その電話がどこで掛かるのかを知らないまま山に入ると、手順が成立しません。 結論を先に言うと、選ぶべきキャリアは NTC 一択 で、これは好みではなくABCではもう一方が繋がらない という事実によります。
結論:NTC(Nepal Telecom)
分岐点:チョムロン
ABC 4,130m:NTCのみ可能性あり
Contents
1 結論:NTC一択である理由
ネパールの主要な携帯キャリアはNTC(Nepal Telecom/国営) とNcell(民間) の2つです。街で使うだけなら好みで選べますが、ABCへ入るなら選択の余地はありません。
NTC(Nepal Telecom) Ncell
都市部の速度 Ncellより劣るとされる 速い。 カトマンズ・ポカラでは定評がある
山間部 圧倒的に強い。 シヌワ・バンブー・デウラリなど、Ncellが落ちる村でも掴む高度が上がると落ちる
MBC(3,700m) ABC(4,130m) 2024年6月以降、4G LTEが到達 したとされる。ただし天候により弱い この高度では通常使えない
この旅程での判定 これを買う 都市滞在だけなら可
「1枚しか持たないならNTC」というのが、複数の情報源に共通する結論です。 速度で選ぶとNcellになりますが、速度が必要な場面(カトマンズ・ポカラ)にはロッジや宿のWi-Fiがあります。 逆にNTCしか掴まない場所には、代わりになるものが何もない。 だから非対称な選択になります。
2枚持ちも選択肢です。 ネパールのSIMは安いので、NTCを主、Ncellを従 で両方持つ手はあります。デュアルSIM端末なら物理SIM+eSIMで両立できます。ただし1枚に絞るなら迷わずNTC ——ここだけ外さなければ大きな問題は起きません。
2 どこで、どう買うか
いちばん簡単なのはカトマンズの空港(トリブバン国際空港) です。入国審査を抜けた先にNTC・Ncellなどのカウンターが並んでいます 。
項目 内容
場所 入国審査を抜けた先の各社カウンター。英語が通じる スタッフが常駐し、旅行者対応に慣れている
必要なもの パスポート。 登録に使う
所要 10〜15分程度 で登録・開通まで終わるとされる
料金 データプランは安価。国際eSIMは$5前後から という水準
本プランの到着は10/23の23:25です。 深夜着なので、
カウンターが開いているかは読めません。 到着ビザの取得に30〜60分かかる想定なので、出てくるのは深夜0時過ぎ。
「空港で買えなかった場合」を想定しておく必要があります。
回避策は2つ。 ①
eSIMを日本で買って、搭乗前に設定しておく (→
3章 )。②翌10/24のポカラで買う——ただし
10/24は土曜で、店舗の営業が読めません (→
ポカラの1日を組み立てる )。
①が確実です。
3 物理SIMかeSIMか
NTC・Ncellとも、現在はeSIMに対応している とされています。加えて、国際的なeSIM事業者(Airalo・Airhub・GOHUB など)がネパール向けのデータプランを提供しており、日本にいるうちに購入して、搭乗前に有効化できます。
現地で物理SIM/eSIM 日本で国際eSIM
入手 空港カウンター(深夜は不確実) 出発前に完了。着陸した瞬間から使える
キャリアの指定 NTCを名指しで買える ここが要注意。 接続先がNTCかNcellかは事業者・プラン次第
音声通話 番号が付く。通話ができる データ専用のことが多い。 電話番号が付かないプランがある
料金 安い $5前後から。現地SIMよりは割高
eSIMを選ぶときの決定的な確認点が2つあります。
① 接続先がNTCかどうか。 「ネパール対応」と書いてあっても、Ncellにしか繋がらないプランではABCで無力です。 購入前に対応ネットワークの記載を確認してください。
② 音声通話ができるかどうか。 データ専用プランだと、保険会社のサポートラインに電話が掛けられません。 データがあればIP電話(アプリ経由)で掛けられますが、山中の細い電波でIP通話が成立するかは別問題 です。
本プランの推奨:日本で国際eSIM(着陸直後の保険)を用意しつつ、翌朝または空港で NTC の物理SIM(音声付き)を買う。 二重になりますが、片方が「深夜に買えない」で崩れ、もう片方が「ABCで繋がらない」で崩れる ——という別々の失敗をそれぞれ潰せます。合計しても数千円の話です。
4 ルート別:電波が切れる場所
確定した行程(10/25〜10/30)に沿って整理します。
区間 場所 電波の状況 意味
D3(10/25) ポカラ〜チョムロン(2,170m)
良好(4G)
ポカラ・ナヤプル周辺はNTC・Ncellとも4G 。通話・メッセージ・ネットが普通に使える
D4(10/26) チョムロン以降 バンブー・ドバン
ここが分岐点
「チョムロンから先は、インターネットを当てにできない」 という記述が繰り返し出てくる。Ncellが落ち始めるのはこの辺り
D5(10/27) ヒマラヤ村〜デウラリ 〜MBC(3,700m)
弱い/NTCのみ
デウラリは2Gから4Gへ更新された とされる。MBCまでNTCの4Gが到達しているという記述がある
D6(10/28) ABC(4,130m)
NTCなら可能性あり
2024年6月以降、NTCの4G LTEがABCまで拡張された とされる。ただし天候により弱い。 Ncellは通常使えない
D7〜D8 下降〜ジヌダンダ 〜ポカラ
回復していく
降りるほど繋がる。チョムロンより下に戻れば通常運用
「4Gが届いている」と「いつでも使える」は別物です。 基地局が到達していても、天候・山影・混雑で実際には掴めない ことがあります。ABCの記述にも「NTCは天候により弱い信号となる可能性がある」 と条件が付いています。電波を前提に計画を組まず、「繋がったら儲けもの」として扱う のが安全です。
5 ロッジのWi-Fiと、その限界
項目 目安
料金 1日あたり USD 2〜5 。無料ではないのが基本
使える範囲 MBCを過ぎると不安定になるか、完全に落ちる とされる
速度 メッセージが送れる程度。写真や動画のアップロードは期待しない
充電 別料金。1デバイスあたり USD 2〜5
6日分を積むと無視できない額になります。 Wi-Fiと充電を毎日使うと1日 USD 4〜10 ×6日 。モバイルバッテリーを大きめに持つほうが、結果として安く確実 です。装備リストにモバイルバッテリーが入っているのはこの理由です。寒さでバッテリーの持ちが落ちる 点も込みで容量を決めてください。
6 保険手順は成立するか
本プランの保険(t@biho)では、「ヘリ搬送を承諾する前にサポートラインへ電話する」 を最重要手順に置いています。ネパールでは不要なヘリ搬送による不正請求が問題化し、審査が厳しくなっているためです。この手順が、電波の実態と噛み合うかを検証します。
場所 電話は掛かるか 実務上どうするか
チョムロンより下 掛かる 通常どおり。まず電話
チョムロン〜MBC 不確実 掴めるポイントを探す。 ロッジのWi-Fiが生きていればIP通話も試す
MBC・ABC NTCなら可能性あり。 天候次第 掛かるなら掛ける。掛からない場合は下の手順へ
電話が掛からない場所で急変したときの順序を、先に決めておく。
① まずガイドに判断を委ねる。 医学的に緊急なら、
保険会社への連絡より生命が優先 です。「電話が繋がらないから動かない」は本末転倒。
② 同時に記録を取る。 SpO₂の数値・症状・時刻・経過を書き残す。
後から支払可否を分けるのは、この記録です。 電話できなかった事実も含めて記録する。
③ 電波が戻った時点で、すぐ掛ける。 下降すれば必ず繋がります。「事後で構わない」ではなく
「掛けられる最初のタイミングで掛ける」 ——この差が説明のしやすさを変えます。
④ ガイドの会社の緊急連絡先を控えておく。 会社は下界にいるので、
ガイドの無線・衛星機器や、ロッジ経由で会社に連絡が回る ことがあります。手配の実務は会社が担います。
この4段を出発前にガイドと共有しておくこと が、6章の結論です。現地で初めて話し合う話ではありません(→
2通目に伝えること )。
7 電波が無いときの代替手段
ガイドの通信手段を確認しておく。 会社によっては無線機や衛星通信機器 を持たせています。持っているかどうかは、手配のメールで聞ける情報 です。持っていないなら、それも把握しておくべき前提になります。
ロッジの固定回線・衛星回線。 主要なロッジは何らかの連絡手段を持っています。緊急時にロッジのオーナーへ頼るのは正当な選択肢 です。
衛星通信端末を自分で持つ。 Garmin inReach のような双方向の衛星通信端末を持ち込む選択肢はあります。ただしネパールでは衛星通信機器の持ち込みに規制があるという情報があり、本記事では確認できていません。 検討するなら持ち込みの可否を先に調べてください。 安易に勧められる手段ではありません。
紙の情報を持つ。 これがいちばん確実です。サポートラインの番号・証券番号・宿の電話番号を紙に印刷 して、財布とザックの2か所に分けて入れる。スマホが死んでも情報は残ります。
過度に不安がる必要はありません。 ABCは人が常に歩いているルート で、ロッジも点在しています。完全に孤立する区間はありません。問題は「連絡できないこと」ではなく「連絡できないときの段取りを決めていないこと」 です。段取りさえあれば、電波の有無は運用の問題に落ちます。
8 日本の回線をどうするか
国際ローミングは切っておく。 現地SIM/eSIMを使うなら、日本の回線のデータローミングはオフ。意図しない高額請求を避けます。
ただし完全に電源を切らない。 日本の番号宛のSMS(認証コード等)を受け取る必要が出ることがあります。デュアルSIMなら、日本回線は音声・SMSのみ有効 にしておくのが扱いやすい。
保険会社のサポートラインが0120(フリーダイヤル)のみの場合に注意。 日本のフリーダイヤルは海外から掛けられません。 契約書類から海外から掛けられる番号(+81で始まる番号)を控えておくこと 。掛け方は「海外から日本のフリーダイヤル(0120)に電話する方法 」にまとめてあります。
時差は3時間15分。 日本のほうが進んでいます。日本の窓口が24時間対応でない場合、ネパール時間の何時に掛けるべきかを換算しておく 。t@bihoのサポートラインは24時間対応なので、この点は問題になりません。
9 出発前チェックリスト
SIMロックが解除されているか確認する。 されていないと現地SIMが使えません。今すぐ確認できる項目 です
eSIM対応端末かどうかを確認する。 対応していないなら物理SIM前提で組む
日本で国際eSIMを買うなら、接続先がNTCかを確認する (→3章 )
音声通話ができる手段を1つは確保する。 データ専用だけで山に入らない
保険のサポートラインの「+81から始まる番号」を紙に控える (財布とザックの2か所)
証券番号・宿の電話番号・ガイドの会社の緊急連絡先も同じ紙に
モバイルバッテリーの容量を決める。 充電が1回 USD 2〜5、寒さで持ちが落ちる前提で
オフライン地図をダウンロードしておく。 電波が無くても位置は分かる
ガイド手配のメールで「無線・衛星通信機器を持っているか」を聞く
電波が無い場所での4段の手順を、ガイドと事前に共有する (→6章 )